占星術洋書レヴュー#05:Joseph Crane"Astrological Roots: The Hellenistic Legacy"

  • 2018.02.17 Saturday
  • 05:00

たとえば、かつてマーク・エドモンド・ジョーンズが述べた、「占星術は現在(=レヴュアー注: 1978年時点)の劇的な様相をなすに至りましたが、それに至る総ての物語を書き記した人物はいません/古典占星術の重要人物といえばおそらく17世紀のウィリアム・リリー、以降はラファエル六世…」(※1)といった、数千年以上に亘る占星術の歴史が綿密には語られない、あるいは語られるにしてもわずか数人の「著名」「偉大」とされる人物の功績のみの概要程度で丸め簡略化された程度でしか述べられる事はない、といったような事態は、1980年に始まる(※2)欧米での古典占星術復興運動を経、21世紀の今日ではより綿密に語られる形へと改められるに至りつつあるようですし、また上述運動勃発から38年を経た2018年現在の今日における上記復興・研究の成果は目覚ましいものがあるようにレヴュアーには見受けられます。

 

古代ギリシャ、ヘレニスティック占星術にかんする教科書である本書は、著者ジョセフ・クレーンがかつてプロジェクト・ハインドサイトのロバート・シュミットやロバート・ハンドらの許で学んだ直後にリリースなさった前作"A Practical Guide to Traditional Astrology"(ARHAT 1997、レヴュアーの所持しているものは2007年版)で垣間見られました、学びの感激に裏打ちされ(?)てか、幾分ドライヴ感のあった文章(だからこそ、読み進めるこちらにもその感激が伝わってきた、という良さもあったのかもしれません)とは異なり、ヘレニスティック占星術師、実践家としての著者の円熟味が加味されたであろう事もあってか、すっかり上記ドライヴ感は緩和され、それと引き換えに43ものチャートを用いての解説文章では説得力がより増しているようにレヴュアーには映りました。

 

ロバート・ゾラーや上記ハンド、あるいはジョン・リー・レーマンの図書もそうですが、クレーンの本書も実践レヴェルでのテクニックが要領よく簡潔にまとめられているのが最大の魅力でしょう。アンソニー・ルイスのホラリー図書同様、いにしえの古典占星術家達の執筆図書文章・叡智のエッセンスが著者自身の検証作業(=大変な労力!!)をも経、まとめられている感が大いにあるのが何よりも嬉しい、というのがあります…ただ、より厳密に申せば、上記古典占星術記載事項の数々も学ぶ私達一人ひとりが自身で検証するのがベストではあるものとレヴュアーは常々考えておりますけども。

 

(ホール・)サイン・ハウス・システム−著者も、古典占星術復興以前には歴史に埋もれたかのように見られ、それゆえに占星術家達に留意される事が稀となっていたこのハウス・システムが、アルカビティウス、レジオモオンタナス、プラシーダスなど人口に膾炙したクワドラント・システム同様、実践レヴェルで利用するハウス・システムとなり得るものと知り、以降利用頻度ならびにそれに対する信頼度もゆっくり、ゆっくりと上がって行った事を本書で綴っておられます。

 

セクトやトリプリシティ・ルーラーの多用、ロット(パーツ)の応用、現代占星術と異なる天体・アスペクトの考え方…後半230ページから始まる未来予知についてもたとえばプロフェクション(クラウディウス・プトレマイオス(プトレミー、100〜178)が述べた手法以外にヴェッティウス・ヴァレンズ(120〜175)が提示した手法の有効性をも紹介(※3))などは現代占星術ではお目にかかれない項目でもありますが、目に見えて明らかな技術次元での現代占星術との相違のみならず、それ以前に重要なのはひょっとしたら古代ギリシャの世界観や哲学を理解することなのかもしれません(※4)。たとえば巻末文献リストにある、アリストテレスの"Soul"にかんする書などを前もって読み臨めば、本書の理解はなおスムーズに進むのかもしれないとレヴュアーは思ったものです(レヴュアーいわく、"soul(魂)"の語ひとつを取っても、21世紀現代の日本人が用いる「魂」の意味とはまったく、100%同じではないのかもしれません(※5))。

 

ホロスコープを扱った古典占星術(≒古代ギリシャからアラブ、中世ラテン、17世紀までの占星術を網羅したもの)のなかでもヘレニスティック期のそれにかんする研究に限っていえば、ドロセウス・オヴ・シドン(75〜???)"Carmen Astrologicum"やジュリウス・ファーミカス(285〜360)"Mathesis"の英完訳(それぞれベンジャミン・ダイクス、ジェームス・ホールデンによる)図書の刊行があったり、2017年には若き気鋭のヘレニスティック占星術師クリス・ブレナンの図書"Hellenistic Astrology"(Amor Fati Publications 2017)がリリースされたりと、研究の成果は上述通り顕著であり、今後の成果はより楽しみでもありますが、それら文献・最新研究書への足掛かりとしても本書はとてもふさわしい一冊と言えるでしょう。

 

 

※1…Marc Edmund Jones"Fundamentals of Number Significance"(SABIAN PUBLISHING SOCIETY 1978)、p.65参照。ジョーンズの図書が、占星術の歴史を述べることを主眼としている訳ではないことを承知のうえでレヴュアーは引用しています。

 

※2…John Lee Lehman"Classical Astrology for Modern Living: From Ptolemy to Psychology & Back Again"(Schiffer 1996)、p.10参照。 ここで著者ジョン・リー・レーマンはロバート・ゾラーの処女作"The Arabic Parts: The Lost Key to Prediction"(Inner Traditions 1980、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み)が世に出たことで、古典占星術復興はその端緒、きっかけを得た(launch)と明言なさっています。左記図書出版の5年後、オリヴィア・バークレー、パトリック・カリー、ジェフリー・コーネリアスら英国の著名占星術家がウィリアム・リリー"Christian Astrology"(Regulus 1985)ファクシミリ版出版を手掛けた事で、古典占星術復興運動は一気に加速したものとレヴュアーは推測致しますが、序でに申せば1970年代、1960年代…と時代を遡ることにより、なぜ1980年以降の英米占星術界において古典占星術が復興したのかが見えてくる、というのもあるかもしれないとレヴュアーは考えます。また上述本文につき厳密に申せば、占星術の歴史を「綿密に語る人物」が居なかった訳ではないですが、それら人物の多くは「学者」である場合が多く、ジョーンズのような占星術師、実践家はごく少数であったものとレヴュアーは考えます。とは申せ、占星術の歴史研究についてはまだまだ課題があまたあるもようで、それらについてはNicholas Campion"A History of Western Astrology Volume I: The Ancient World"(continuum 2008)第1章参照。

 

※3…ヘレニスティック占星術での実践レヴェルでの技術を後世に伝えた、という意味で最も重要な人物はヴェッティウス・ヴァレンズがその代表格、という説があります(21世紀前半時点)。プトレミーはそもそも占星術の実践家ではなかったという説も存在し、たとえばベンソン・ボブリックは「プトレミーの"Tetrabiblos"は古典占星術において最も重要なテキストではあるものの、ある意味不十分なものである」とし、2世紀のアレキサンドリアで占星術学校運営に携わってもいたヴァレンズの著書"Anthology"全9巻の方がより完全なもの(※6)であるとしています。実践という枠に囚われず、天文学・哲学をも踏まえた、より広範な視点から鑑み後世に影響を与えた、という意味ではもちろん"Tetrabiblos"が最も重要な著書でしょう。

 

※4…Robert Zoller"Tools & Techniques of the Medieval Astrologer Book One"(New Library Limited 2004, 1st Edition 1981)、"Preface to First Edition"参照。

 

※5…プトレミーの占星術にたいする、アリストテレス哲学からの影響についてはGeorge Noonan"Classical Scientific Astrology"(AFA 1984)参照。

 

※6…Benson Bobrick"The Fated Sky - Astrology in History"(SIMON & SCHUSTER PAPERBACKS 2005、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み)、p.54〜56参照。また國分秀星「プトレマイオスの占星術」http://www.kokubu.com/astrology/ptolemy.htmならびにJames Hershel Holden"A History of Horoscopic Astrology"(AFA 1996)、p.147も参照。

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