占星術洋書レヴュー#07: Jean-Baptiste Morin"Astrologia Gallica Book 21"

  • 2018.04.14 Saturday
  • 05:00

まず著者ジャン=バティースト・モラン(1583〜1656)について。前回レヴューさせていただきました、ジェイムス・ホールデンの占星術家人名辞典によれば著名な医師、数学者、天文学者、占星術師で、35歳頃より占星術に真剣に取り組み始め、45歳頃より占星術に人生を捧げるに至った人物、以降高位聖職者で政治家のリシュリュー枢機卿など多くの偉人に仕え、占星術師として働いたのだそうです(※1)。なおホールデン自身、モランが30年の歳月をかけ書き上げた−そして生前、その出版に氏自身がまみえる事のなかった−大著"Astrologia Gallica(=ラテン語で「フランス占星術」の意)"全編26巻中第13〜17、19、22〜26の書を英訳、出版なさっている事を記しておきます(レヴュアーいわく、自身が翻訳した図書の筆者を説明するプロフィール文章は、一際特別なものになっているかもしれません)。ちなみになぜ、本書タイトル部分のみが英訳されず、ラテン語のまま残されたのかは、レヴュアーの知る限り不明ですがまぁ、ラテン語のままの方が何となく恰好良いという気がしない事もない、と思うのはレヴュアーだけでしょうか。

 

上記大著中、第21の書(サブタイトルは「モラン流ホロスコープ解釈法」といった処でしょうか。"Morinus"は"Morin"のラテン名)である本書はリチャード・バルドウィンの英訳(※2)。レヴュアーいわく、1980年に始まる(※3)古典占星術復興運動に先立つ1974年−ここでは詳しく触れませんが、1970年代というのは20世紀占星術において激動の時期の一つであるとレヴュアーは考えます−時点で、かような図書を英訳なさったバルドウィン、リリースに踏み切ったAFA(アメリカ占星術連盟)各位の慧眼ぶりはすばらしい。なおモランの手法は、フランスの多くの占星術師達の間では、21世紀現在の今でも学ばれているのだそうです(※4)。

 

"Astrologia Gallica"自体、占星術ならびにラテン語の双方が斜陽へと傾きつつあったと言われる17世紀半ばにリリースされた著書だった事もあり、多くの人々に認知されるに至らなかった(※5)そうですが、たとえば「(著者モランの)才能が欠如していたわけではなく、タイミングに恵まれず("poor timing")無視されていたのではないか」(※6)とのロバート・ハンドの言葉をも鑑みると、モランの本書に内在する、占星術的見地から見た本質は、時代による風化に屈する程度のものではなかったのでは、とレヴュアーは考えます。ちなみにハンドは本書全26巻中、占星術を支える自然哲学について書かれた第1〜10の書(=2018年時点で英訳公式図書レヴュアー未確認)の重要性をも明言なさっています(※7)。

 

内容は第1部が"primum caelum(恒星の領域)"、天体、恒星などについて、第2部がサブタイトルにあるモラン式チャート解釈手法についてで、17世紀時点で権威とされていたクラウディウス・プトレマイオス(プトレミー、100〜178)、ジロラモ・カルダーノ(1501〜1576)などの手法を批判、一般的なシグニフィケーター(例:太陽は父親、月は母親をそれぞれ司る、等)よりもアクシデンタル・ルーラー(例:第4、10ハウスやそれらの支配星の状態が両親を司る、等)を尊ぶ「普遍性を有する合理的手法("universal rational method")」のエッセンスがこの第2部では詳述されており、天体配置やハウス・ルーラーに基づくリーディング法、ハウスにある一つの天体、ハウスに天体が二つ以上ある場合の解釈法、あるハウスのルーラー天体が他ハウスにある場合の解釈法、イグザルテーション、トリプリシティ、イグザイル(=デトリメント)、フォールにある天体の解釈法、アスペクト(≒「他の11ポイントを通じての関わり」)等が論点となっています、全144ページ。

 

レヴュアーいわく、著者が唱える「合理的手法」が時代を超え「普遍性を有する」か否かは、読者それぞれの判断に委ねられる部分もあるでしょうけども、21世紀現在でもハウスの支配星についてのリーディング、たとえば「第○ハウス・ルーラーの天体が第○ハウスにある」場合の解釈じたい、大いに論じられた図書はそう多くはない(※8)という事もあり、モランの解釈法を現代のハウス解釈、コンテキストに沿った形で(特に第6、8、12ハウスなど)捉え直してみるのも本書の有効な利用法の一つ、というのもあるかもしれません。

 

ただその一方で、プトレミーの手法のみならず、エジプト、アラブ等いにしえの占星術家達の手法の多くを批判、ならびにそれゆえのそれら手法の省略を施したうえで、自身の手法の優越性を「論理的に」証明しているとされる部分は、古典占星術復興運動を経、獲得された、21世紀今日ならではのより大きな歴史観・視点(≒ギリシャ時代やアラブ隆盛時代の手法も大いなる財産である、という視点など)からいえば、著者が述べる程は充分証明されたとは言い難い、というのもあるようで(※9)、この部分はいわば時代ゆえの(占星術のみならず宗教・政治・文化をも含めての)制約が幾つも積み重なったゆえ、と考えて良い面があるとレヴュアーは考えます。

 

そういえばモランと同時代を生きたウィリアム・リリー(1602〜1681)も、"Christian Astrology"(『キリスト教占星術』)が敬意を表すべき大作である事は前提とは申せ、ネイタルを扱った記述の一部では上記、モラン同様の−モランが示したような批判は無いが−省略等が見られ、たとえばペルシャ占星術を起源とし、アラブ占星術で大いに用いられた未来予知法であるフィルダリアは、天体ならびに天体の組み合わせ、それらが表す期間("planetary period")など基本事項を説明するだけで随分紙面を割くはずなばかりか、夜生まれの出生図の持ち主の場合、ノード軸をいずれの期間に当て嵌めるかといった、占星術師ごとでの意見の相違までをもわきまえ説明するとなれば、相応のページ数を費やす(グイド・ボナティ(1210〜1296)、ヨハン・ショナー(1477〜1547)など、リリーが大いに参照した占星術文献著者らは費やしています)ものと思われますが、リリーは数行しか費やしていません(※10)。細かい話ではありますが、これなども上記、時代ゆえの制約の影響を受けた事象であるとレヴュアーは考えます。

 

まぁそれらを踏まえてもモランの本書は有益であるとレヴュアーは考えます。チャートは一枚も収録されていませんが、たとえばホロスコープ解釈説明を踏まえての自身のネイタル・チャートを用いてのケース・スタディ(p.61, 67, 78, 85, 94, 100, 122など)などは殊に興味深く、長じて本書を踏まえての続編であります未来予知編"Book 22"(プライマリー・ディレクションについて)、"Book 23"(レヴォリューションすなわち四季図、リターン・チャートについて)、"Book 24"(プロフェクション、トランシットについて)などを読む楽しみにも繋がる、ともいえるでしょう。

 

However, we must first ascertain whether a planet placed in a given house, and ruler of another, always combines the essential meanings of both houses(中略); this point is of the greatest importance in making judgements.

 

(意訳)しかしながら、あるハウスにありつつ、同時に他ハウスのルーラーでもある天体が、滞在するハウスならびに支配するハウス、両方のハウスの本質的意味を互いに結びつけた象徴として働くか否かを、まずは確かなものとしなければならない(中略)以上がホロスコープを読み判断するうえで最も重要な点である(p.77)。

 

最後に翻訳について。レヴュアーはバルドウィンの、占星術家としてのプロフィールにつき詳らかではありませんが、上掲"Book 22"、"Book 23"、"Book 24"等ホールデン英訳図書に比べ、読みにくいとか判りにくい処があるとかは一切なかったので、おそらくホールデン同様、バルドウィンも占星術の歴史ならびにホロスコープ解釈実践、双方に通じている翻訳家なのであろうと判断しました。プトレミー、カルダーノなど、モランが頻繫に参照・引用なさった占星術家の図書も読んだうえで翻訳なさったのではないかとも思います。また、学ぶうえでの必要最低限の情報のみが書かれた序言からも、バルドウィンの占星術に対する真摯な姿勢は伺えるとレヴュアーは考えます。

 

 

※1…James Herschel Holden"Biographical Dictionary of Astrologers"(AFA 2013)p. 502〜503参照。なお数学者として、かのルイ13世の許で働き、ルイ14世の出産に立ち会いもなさったそうです。

 

※2…レヴュアーいわく、本レヴュー作品リリースと時を同じくする1974年、ロバート・ゾラー等多くの占星術家に占星術の手ほどきを施した、ゾルタン・マンソンも本書英訳図書をリリースなさっているのはじつに興味深い("Astrosynthesis/The Rational System of Horoscope Interpretation/according to Morin de Villefranche", New York 1974)。ちなみに"Astrologia Gallica Book 18"を翻訳なさったアンソニー・ルイス・ラブルーザ(=拙占星術洋書レヴュー#01で取り上げさせて頂きました、"Horary Astrology Plain & Simple"の著者)は左記図書序言でこのゾルタン・マンソンに対し献辞を捧げています。

 

※3…John Lee Lehman"Classical Astrology for Modern Living: From Ptolemy to Psychology & Back Again"(Schiffer 1996)p.10ならびに拙『占星術洋書レヴュー#05: Joseph Crane"Astrological Roots: The Hellenistic Legacy"』脚注2参照。

 

※4…Astro Databankによれば、モランのネイタル水星は水瓶サインにあり天王星とコンジャンクション、天王星の度数は水瓶サイン23゚ (数え24゚)にありサビアン・シンボルは「情熱に背を向けて自分の経験により教えている男」。松村潔先生によれば「これまで世の中に普及している教育法は、山羊座的な価値観の元で作られたもので、もちろんマニュアルもあり、教える人もたくさんいる信頼性の高いものです。ところが水瓶座はもっと未来的なものとして、21度以後、さらに改革的な方針を打ち出しました(中略)水瓶座には、ご当地にこだわる山羊座の歯止めがないので、理念が宇宙的に拡大していき壮大になります。そして山羊座の保証がなく、つまりはアカデミックな認証がない状態で教えています」(松村潔『完全マスター西洋占星術供p.476)、すなわち17世紀フランス占星術界に於いて、モランの説は先達からの権威づけ(≒プトレミー、カルダンらに依拠した占星術)を多くは伴わぬ、時代を先取りし(過ぎ)たものだったかもしれない、というふうに考えて良いと思います。

 

もちろん。この度数を応用的に考え、獅子サイン数え24゚ (上記度数に対し、正確なオポジションの度数、なりふり構わず集中して取り組む姿勢(=水瓶数え24゚ シンボルにある、「情熱」にすっぽり嵌った姿勢)を表す度数)、双子サイン数え24゚ ならびに天秤サイン数え24゚(上記度数に対し正確なトラインの度数、知的な遊び、膨大な情報提供に関わる度数ならびに際限なき積極的受容性を表す度数)などの影響をも考えて良いと思います。一つの度数そのもののみならず、その度数を幾何図形的に補強している場所の性質を付加する事により、その度数の性質を一際掘り下げ得る、というのが松村潔先生の説にございます。幾何図形の中でも三角形の場合、広げていく、拡張する、勢いをつけてゆくという性質をその度数に対し加える事になり、そこに天体があるか無いかは問題にはならない、というのが先生の説のベースにあるものとレヴュアーは考えます。120゚ のアスペクトというのは、そもそも三辺ある正三角形の一辺に過ぎないという考え方に基づけば、三辺総てが動く、すなわち三辺を支える三つの度数総てが働くのが理想、という風に考えても良いと思います。

 

※5…James Herschel Holden"Biographical Dictionary of Astrologers"(AFA 2013)p.503参照。序でに申せば本書訳者バルドウィンは、モランの努力は「科学の台頭が迫っていた時代において、時機を逸したものであった」としています。

 

※6…Robert Hand Interview Recorded by Garry Phillipson 7th September 1997  http://www.astrozero.co.uk/articles/Robert_Hand_97.pdf 参照。

 

※7…同上。ちなみにプライマリー・ディレクションを論じた"Astrologia Gallica Book 22"(Trans. by J.Holden, AFA 1994)には補遺として"Book 2"抄訳が収録されています。

 

※8…松村潔『占星術最新入門』(学研)p.195〜247 には「第○ハウスの支配星が第○ハウスに」ある場合を述べた、144通り(=12のハウス×12のハウス)のクックブック形式解釈文章が収録されています。

 

※9…Jean-Baptiste Morin"Astrologia Gallica Book 13, 14, 15, 19"(Trans. by James Herschel Holden AFA 2006)収録"Book 15"p.5参照。

 

※10…"Christian Astrology"にたいする、ラディカルな迄の批判を含む、碩学による文章は國分秀星『ホラリーに関する誤解(4)』http://www.kokubu.com/astrology/mis4.htm ならびに『ホラリーに関する誤解(5)』http://www.kokubu.com/astrology/mis5.htm 参照。またモランがフィルダリアを論じている箇所は"Astrologia Gallica Book 23"p.126〜127参照。

占星術洋書レヴュー#06: James Herschel Holden"Biographical Dictionary of Western Astrologers"

  • 2018.03.17 Saturday
  • 05:00

拙著電子書籍『占星術家年鑑』(説話社 2015)執筆時、参考文献としてじつに、大いにお世話になった、幅約22×高さ約29×厚さ約5僉⊇鼎橘2,200g(=2.2!)、総ページ数777ページを誇る占星術家事典(American Federation of Astrologers (AFA) 2013)であり、上記拙著執筆完了以降ゆっくり時間をかけ、一度は完読できたのでレヴュー…とは申せ占星術に携わり、占星術の歴史ならびにそこに登場する先達の方々に興味を持ち続ける限り、今後も何度も何度もお世話になるであろう一冊でもあるとレヴュアーは考えます。

 

紀元前2世紀頃〜20世紀中頃(※1)出生の、nヶ国(数えていませんが、21世紀現在の英語圏の国々だけではございません)、2,200人以上の占星術家−実際には同一人物の呼び名のヴァリアント等も含むので、左記人数には及ばないかもしれませんが−の基本情報や主だった著作リストを収録。著者はホロスコープを扱う(="Horoscopic")占星術とその歴史、ならびにそのフィールドでの重要人物を旧著"The History of Horoscopic Astrology"(AFA 1996)で既に一度まとめなさっていますが、そこで収録された人数を本著は大幅に超えています。

 

上記拙著でも触れましたが、占星術家の出生・没年や著書にかんする出版の詳細など、データ関連の細かい処に書きかけや空白部分、記入されるべき文字の欠落があり、また巻末索引や参考文献リストも収録されていないのですけども、これはホールデンが−自身の死が近いのを悟ってなのか−存命中の出版・リリースに踏み切った事による、行き届かなかった部分を表すものとレヴュアーは考えます(ホールデンの没年は2013年)。ちなみに晩年のホールデンの著書・翻訳書出版ラッシュ(※2)は凄まじいものがあり、ポーフィリー(234〜304)やアレキサンドリアのポール(4世紀)など、古代ギリシャでの重要な占星術師を紹介する翻訳やジュリウス・ファーミカス(285〜360)の大著"Mathesis"の全訳(620ページ!)などがリリースされました。

 

古代ギリシャ語、ラテン語、フランス語、ドイツ語等、複数の言語に通じているホールデンは上記以外にも、古典占星術写本などの英訳を多くなさっており、また1982年すなわちオリヴィア・バークレーらがウィリアム・リリー(1602〜1681)著"Christian Astrology"のファクシミリ版(Regulus 1985)をリリースする前の時点で、占星術史上最古のハウス・システムとされるサイン・ハウス・システム(="Sign-House System"。1990年代、ロバート・ハンドがホール・サイン・ハウス・システム"Whole Sign House System"と命名したものと同じシステムで、ハンドの著名さゆえか、ハンド命名名称である「ホール〜」の方が人口に膾炙しているように見受けられるシステム。実はホールデンの命名の方が10年以上も早いのです)をいち早く紹介なさるなど(※3)の功績もあり、すべからく古典占星術復興といえばロバート・ゾラー、オリヴィア・バークレー、リー・レーマン、プロジェクト・ハインドサイトなどの功績を真っ先に思い出す人も多い(レヴュアーもですが)中、じつはホールデンも復興運動の早い時期からの大功労者なのだ、という事に改めて気づかされるというのもあると思います。

 

かようなわけで、本書は事典として重宝するのはもとより、ホロスコープを扱う占星術、すなわち実践占星術ならびにその歴史に精通している、古典占星術英訳図書をも有する著者ならではの、古典から現代までを通じての歴史観までもが背後に見て取れる読み物、という意味でも金字塔的に面白い一冊であるとレヴュアーは考えます。

 

上述占星術家達の履歴の中には、彼らが自身の人生・時代を一所懸命生きたなかでの興味深いエピソードなどもてんこ盛りに書かれているのですけども、それも本書の大きな魅力の一つです。それらエピソードなど記載項目の中から、レヴュアーなりに以下、箇条書きで幾つかご紹介いたしますと…

 

・ページ数が多く割かれている占星術家はアブ・マシャー(787〜886)、ヘルメス・トリスメギストゥス(古代ギリシャ時代)の二人が5ページ、ジャン・バティースト・モラン(1583〜1656)が6ページ、クラウディウス・プトレマイオス(プトレミー、100〜178)が7ページ、ジュリウス・ファーミカスが12ページ、以上5名がトップ5(ホールデンが自身に6ページ割いているのを除く)。モランとファーミカスはホールデン自身、彼らの著書の多くを翻訳なさっているので、彼らへの思い入れの強さがページ数、文字数にも顕れたのかもしれません。

 

・未来予知を行い、見事当ててみせた占星術家の記載も多いですが、21世紀現在の欧米など以上に、生き抜く事じたいが困難な国、時代を生きた占星術家が多いせいもあってか、ホールデンが紹介した、語り継がれ残ったそれら予知は生死に関わるものが多いようにレヴュアーには思われます。

 

・いつの時代、どんなジャンルにもライヴァル同士、あるいは実際にはそうでなくとも、周囲からそのように見なされる関係というものはあると思います。上記モランとプラチドゥス・デ・ティト(プラシーダス、1603〜1668)の二人もハウス・システムの選択ならびにソーラー・リターン・チャートの有効性の二項目を巡り意見の対立があったゆえもあり、互いに切磋琢磨する関係にあった部分もあるようです。これら二項目の落着については、ハウス・システムの件ではプラシーダス(プラシーダス・ハウス・システムは18世紀に至った際、ジョン・パートリッジ(1644〜1715)が多くの占星術家達にとって利用しやすい室項表を作成・普及に成功させたため、以降、モランが推奨したレジオモオンタナス・ハウス・システム以上に用いられるようになったようです)、ソーラー・リターン・チャートの件ではモラン(モランが推したソーラー・リターン・チャートの有効性・支持を唱える占星術家は21世紀現在も多いでしょう)がそれぞれ「勝利を勝ち取った("won out")」(※4)とホールデンは1994年時点で書いており、さしずめ両者は「痛み分け」でしょうか。

 

・上記拙著でも書きましたが、本書に収録された日本人占星術家は、ホールデンと同じAFA(アメリカ占星術連盟)に所属なさっていた石川源晃ただ一人です。石川源晃の著作リストに"Ensyuu Senseigaku Nymon(ママ)"とあるのは微笑ましいです。

 

・占星術家の最期も様々ですが、ここではロバート・デ・ルース(=かのノエル・ティルも、ソーラー・アークなど未来予知技術検証の過程でプライマリー・ディレクションを研究なさる際手に取った"Complete Method of Prediction"(Stationers Corp. 1935、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み)の著者)の最期をご紹介いたします。しばしば自身の死期を予知しようと試みなさっていた氏が、ウィルス性肺炎を患い心身共回復に努めるべく療養施設で過ごしておられた折、氏の許に三か月後に開催の、ボストンでの占星術大会(="convention")での講演依頼が舞い込んだそうです。講演依頼の手紙を読んだ氏、奥様にいわく「うん("Yes")、ボストンに行くよ!」−この発言の一ヶ月半後に氏は亡くなられ、上記講演出演も実現しませんでしたが、レヴュアー推測するに健康状態にかかわらず、ボストンでの大会に向け最善の準備に取り組んだであろう氏にとって上述、自身の死期の予知の件などは忘却のうちにあったかもしれません…なおホールデンいわく、氏の健康状態を永く傍で見守り続けて来た、氏と同じ占星術家でもあった奥様は、実際の氏の最期の一年前の時点で氏の最期の時機を予測なさっていた、と。

 

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"To Those Who Came Before Us. Homage!"(訳: 私達の先人達にオマージュを!)(※5)というフレーズは、ロバート・ハンドが作成なさった、歴代占星術家達へのオマージュyoutube動画中、最後に掲げられた言葉ですが、ホールデンが20年の永きに亘り本書執筆、ならびにそのためのデータ収集を弛まず継続なさった、その推進力に込められた本質にもハンドの上記言辞同様、あるいはそれ以上のものが込められていたのでは、とレヴュアーは考えます。

 

 

※1…原則、1936年までの出生の占星術家を氏なりに網羅なさっていますが、1936年以降出生でもチャールズ・ハーヴェイ(1940〜2000)、ハワード・サスポータス(1948〜1992)など、本書出版時点で既に亡くなっておられる占星術家に限り、1936年以降出生でも収録、という例外はあるようです。ちなみに古典占星術師であるホールデンが、自身よりも約二回りも若い、心理占星術師として名高いサスポータスについて「彼はエイズで亡くなったが、彼の死は彼の友人達にじつに惜しまれた("much regretted by his friends")」と書いておられるをレヴュアーはよく覚えています。

 

※2…上記ポーフィリーなど幾つかの翻訳は1980年代時点(!)で英訳されており、氏に近い占星術コミュニティ内限定で配布されていたそうです。それらに対し修正・加筆などが施され2000年代末公式リリースされたという事ですね。

 

※3…James Herschel Holden"The History of Horoscopic Astrology"、p.94参照。本レヴュー図書ならびに左記ホールデンの旧著を読むと、1990年代にプロジェクト・ハインドサイト(=ロバート・シュミット、ロバート・ハンド、ロバート・ゾラー他一名で構成のユニット)が大規模な翻訳活動を通じ明らかにした、と思われた歴史的事象の多くか、あるいは幾分かをホールデンは既にご存知だったのがわかります。

 

※4…同上、p.173参照。

 

※5…"Astrologers Gallery by Robert Hand" https://www.youtube.com/watch?v=XSeE-w5vtLw (2014)

占星術洋書レヴュー#05:Joseph Crane"Astrological Roots: The Hellenistic Legacy"

  • 2018.02.17 Saturday
  • 05:00

たとえば、かつてマーク・エドモンド・ジョーンズが述べた、「占星術は現在(=レヴュアー注: 1978年時点)の劇的な様相をなすに至りましたが、それに至る総ての物語を書き記した人物はいません/古典占星術の重要人物といえばおそらく17世紀のウィリアム・リリー、以降はラファエル六世…」(※1)といった、数千年以上に亘る占星術の歴史が綿密には語られない、あるいは語られるにしてもわずか数人の「著名」「偉大」とされる人物の功績のみの概要程度で丸め簡略化された程度でしか述べられる事はない、といったような事態は、1980年に始まる(※2)欧米での古典占星術復興運動を経、21世紀の今日ではより綿密に語られる形へと改められるに至りつつあるようですし、また上述運動勃発から38年を経た2018年現在の今日における上記復興・研究の成果は目覚ましいものがあるようにレヴュアーには見受けられます。

 

古代ギリシャ、ヘレニスティック占星術にかんする教科書である本書は、著者ジョセフ・クレーンがかつてプロジェクト・ハインドサイトのロバート・シュミットやロバート・ハンドらの許で学んだ直後にリリースなさった前作"A Practical Guide to Traditional Astrology"(ARHAT 1997、レヴュアーの所持しているものは2007年版)で垣間見られました、学びの感激に裏打ちされ(?)てか、幾分ドライヴ感のあった文章(だからこそ、読み進めるこちらにもその感激が伝わってきた、という良さもあったのかもしれません)とは異なり、ヘレニスティック占星術師、実践家としての著者の円熟味が加味されたであろう事もあってか、すっかり上記ドライヴ感は緩和され、それと引き換えに43ものチャートを用いての解説文章では説得力がより増しているようにレヴュアーには映りました。

 

ロバート・ゾラーや上記ハンド、あるいはジョン・リー・レーマンの図書もそうですが、クレーンの本書も実践レヴェルでのテクニックが要領よく簡潔にまとめられているのが最大の魅力でしょう。アンソニー・ルイスのホラリー図書同様、いにしえの古典占星術家達の執筆図書文章・叡智のエッセンスが著者自身の検証作業(=大変な労力!!)をも経、まとめられている感が大いにあるのが何よりも嬉しい、というのがあります…ただ、より厳密に申せば、上記古典占星術記載事項の数々も学ぶ私達一人ひとりが自身で検証するのがベストではあるものとレヴュアーは常々考えておりますけども。

 

(ホール・)サイン・ハウス・システム−著者も、古典占星術復興以前には歴史に埋もれたかのように見られ、それゆえに占星術家達に留意される事が稀となっていたこのハウス・システムが、アルカビティウス、レジオモオンタナス、プラシーダスなど人口に膾炙したクワドラント・システム同様、実践レヴェルで利用するハウス・システムとなり得るものと知り、以降利用頻度ならびにそれに対する信頼度もゆっくり、ゆっくりと上がって行った事を本書で綴っておられます。

 

セクトやトリプリシティ・ルーラーの多用、ロット(パーツ)の応用、現代占星術と異なる天体・アスペクトの考え方…後半230ページから始まる未来予知についてもたとえばプロフェクション(クラウディウス・プトレマイオス(プトレミー、100〜178)が述べた手法以外にヴェッティウス・ヴァレンズ(120〜175)が提示した手法の有効性をも紹介(※3))などは現代占星術ではお目にかかれない項目でもありますが、目に見えて明らかな技術次元での現代占星術との相違のみならず、それ以前に重要なのはひょっとしたら古代ギリシャの世界観や哲学を理解することなのかもしれません(※4)。たとえば巻末文献リストにある、アリストテレスの"Soul"にかんする書などを前もって読み臨めば、本書の理解はなおスムーズに進むのかもしれないとレヴュアーは思ったものです(レヴュアーいわく、"soul(魂)"の語ひとつを取っても、21世紀現代の日本人が用いる「魂」の意味とはまったく、100%同じではないのかもしれません(※5))。

 

ホロスコープを扱った古典占星術(≒古代ギリシャからアラブ、中世ラテン、17世紀までの占星術を網羅したもの)のなかでもヘレニスティック期のそれにかんする研究に限っていえば、ドロセウス・オヴ・シドン(75〜???)"Carmen Astrologicum"やジュリウス・ファーミカス(285〜360)"Mathesis"の英完訳(それぞれベンジャミン・ダイクス、ジェームス・ホールデンによる)図書の刊行があったり、2017年には若き気鋭のヘレニスティック占星術師クリス・ブレナンの図書"Hellenistic Astrology"(Amor Fati Publications 2017)がリリースされたりと、研究の成果は上述通り顕著であり、今後の成果はより楽しみでもありますが、それら文献・最新研究書への足掛かりとしても本書はとてもふさわしい一冊と言えるでしょう。

 

 

※1…Marc Edmund Jones"Fundamentals of Number Significance"(SABIAN PUBLISHING SOCIETY 1978)、p.65参照。ジョーンズの図書が、占星術の歴史を述べることを主眼としている訳ではないことを承知のうえでレヴュアーは引用しています。

 

※2…John Lee Lehman"Classical Astrology for Modern Living: From Ptolemy to Psychology & Back Again"(Schiffer 1996)、p.10参照。 ここで著者ジョン・リー・レーマンはロバート・ゾラーの処女作"The Arabic Parts: The Lost Key to Prediction"(Inner Traditions 1980、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み)が世に出たことで、古典占星術復興はその端緒、きっかけを得た(launch)と明言なさっています。左記図書出版の5年後、オリヴィア・バークレー、パトリック・カリー、ジェフリー・コーネリアスら英国の著名占星術家がウィリアム・リリー"Christian Astrology"(Regulus 1985)ファクシミリ版出版を手掛けた事で、古典占星術復興運動は一気に加速したものとレヴュアーは推測致しますが、序でに申せば1970年代、1960年代…と時代を遡ることにより、なぜ1980年以降の英米占星術界において古典占星術が復興したのかが見えてくる、というのもあるかもしれないとレヴュアーは考えます。また上述本文につき厳密に申せば、占星術の歴史を「綿密に語る人物」が居なかった訳ではないですが、それら人物の多くは「学者」である場合が多く、ジョーンズのような占星術師、実践家はごく少数であったものとレヴュアーは考えます。とは申せ、占星術の歴史研究についてはまだまだ課題があまたあるもようで、それらについてはNicholas Campion"A History of Western Astrology Volume I: The Ancient World"(continuum 2008)第1章参照。

 

※3…ヘレニスティック占星術での実践レヴェルでの技術を後世に伝えた、という意味で最も重要な人物はヴェッティウス・ヴァレンズがその代表格、という説があります(21世紀前半時点)。プトレミーはそもそも占星術の実践家ではなかったという説も存在し、たとえばベンソン・ボブリックは「プトレミーの"Tetrabiblos"は古典占星術において最も重要なテキストではあるものの、ある意味不十分なものである」とし、2世紀のアレキサンドリアで占星術学校運営に携わってもいたヴァレンズの著書"Anthology"全9巻の方がより完全なもの(※6)であるとしています。実践という枠に囚われず、天文学・哲学をも踏まえた、より広範な視点から鑑み後世に影響を与えた、という意味ではもちろん"Tetrabiblos"が最も重要な著書でしょう。

 

※4…Robert Zoller"Tools & Techniques of the Medieval Astrologer Book One"(New Library Limited 2004, 1st Edition 1981)、"Preface to First Edition"参照。

 

※5…プトレミーの占星術にたいする、アリストテレス哲学からの影響についてはGeorge Noonan"Classical Scientific Astrology"(AFA 1984)参照。

 

※6…Benson Bobrick"The Fated Sky - Astrology in History"(SIMON & SCHUSTER PAPERBACKS 2005、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み)、p.54〜56参照。また國分秀星「プトレマイオスの占星術」http://www.kokubu.com/astrology/ptolemy.htmならびにJames Hershel Holden"A History of Horoscopic Astrology"(AFA 1996)、p.147も参照。

占星術洋書レヴュー#04: John Lee Lehman"Classical Solar Returns"

  • 2018.01.13 Saturday
  • 05:00

未来予知の手法の一つである、ソーラー・リターンが論じられた図書(スチファー社、2012年刊)。

 

序言では、ソーラー・リターン・チャート作成の際、場所は出生地、現住所、ソーラー・リターン時点で居る場所、いずれを用いるか、また数ある未来予知技術のなかで、信頼のおけるものはいずれなのか、などについて述べられています(その過程で著者ジョン・リー・レーマンは本文脚注で"traditional(伝来の)"ならびに"classical(古典の、伝統的な)"、二つの語を「交換できるように(interchangeably)」用いていることを私達読者に注意を促しています)。

 

第1章はソーラー・リターンの歴史について。以下、レヴュアーなりに要点を箇条書きで列挙いたしますと、

・古代ギリシャ、ヘレニスティック時代にソーラー・リターン(=17世紀まではレヴォリューション(=回転)・チャートと呼ばれていました)という技法は存在したか、について。

 

・アラブ世界で占星術が隆盛した時代(=8〜10世紀)はどうであったか。ここで著者はソーラー・リターン同様、年運を推し測る未来予知技術であるプロフェクションとの比較をも論じています。

 

・中世ラテン時代、ならびにモダン(と著者は書かれていますが、ジロラモ・カルダーノ(1501〜1576)やウィリアム・リリー(1602〜1681)らの説が紹介されているので16、17世紀を指すようです)、18〜19世紀はどうであったか。

 

・20世紀に活躍した、ソーラー・リターンを論じた著書を有する占星術家達(例: マリー・シェア。シェアのソーラー・リターン本はamazon.co.jpでレヴュアーレヴュー済み)の意見はどうであったか。

 

以上はネイタル・チャート上の太陽・月・水星の三天体を乙女サインに有する著書ならではの鋭い問題提起、ならびにそれらに対する鋭い突っ込みが(いつもながら)読み応えがあるとレヴュアーは考えます。

 

第2章からはケース・スタディを用いてのチャート・リーディングに入ります。第3章は恋愛・結婚ならびに人間関係について。

 

著者のソーラー・リターン・チャート解釈手法の特徴の概要を以下に述べますと、

・ハウス・システムはレジオモンタナス・ハウス・システムを採用。

 

・ソーラー・リターン・チャートのみでの解釈ならびにネイタル・チャートとの比較、二重円を踏まえての解釈、双方を行う。

 

・ジョン・ガドバリー(1627〜1704)らのアフォリスム(箴言)を箇条書きで挙げ、留意。なお著者は左記アフォリスムなどいにしえの先達の言葉を現代の私達の時代・文化のコンテキスト(文脈)に変換し活かすことをも忘れていません。

 

・チャートでの目立った配置(例: アングルに乗る天体、ネイタル・チャートの天体にアスペクトする天体、水星・金星はネイタル・チャートでのそれらと同じサインにあるか否か、etc)を列挙。

 

・各天体のディグニティに留意。レーマンの場合、トリプリシティを獲得しているか否かにつき(他占星術家に比し)特別視なさるのは旧著"Essential Dignities"(Schiffer 1989、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み)以来変わりません。

 

全章を通じネイタル、リターン双方を合わせ130ものチャートが収録され、かつ著者の解釈が付されているのは圧巻。レヴュアーなどは著者の解釈(=古典占星術ベース)を拝読しつつ、自身なり(=現代占星術ベース)にもそれらを読みいわばチャート読みの練習として利用もさせてもらいました、また今後もさせてもらうでしょう。

 

仕事・金銭をテーマとした第4章冒頭では、「仕事をする必要がないのであれば、わざわざ一所懸命働く道を選ぶだろうか」なる疑問を持ち出し、まずはどんな仕事であれ労働に対する情熱ありきなのでないか、それによりどれだけの稼ぎが生み出せるか否かでないか、だがあいにく伝来の(=traditional)占星術(ここではグイド・ボナティ(1210〜1296)、リリー、ガドバリーの説が具体例として述べられているので13〜17世紀か)に於いては、それら労働ならびにそれらに対する情熱とが互いに絡み合わされるさまがトピックとして論じられた形跡は見出せなかったとし、上記時代における労働、価値交換の手段としての財産(=土地)・金銭などに対する考え方、社会条件についての歴史を理解する必要がある旨が2ページに亘り論じられたうえで冒頭「仕事とは」という疑問に戻り、占星術的考察に入っています。

 

著者の上掲「一般的にこのように見なされている〇〇は、果たしてそうか」と疑問に思い検証して見せよう、なる姿勢はたとえば"Classical Astrology for Modern Living"(Schiffer 1996)で古代ギリシャ、ヘレニスティック占星術において有効な技法とされていたセクト(Sect)がボナティ、リリー、ガドバリー、ジョン・パートリッジ(1644〜1715)と徐々に時代が下るにつれ、有効とは見なされなくなっていったという歴史的事実が存在する事に疑問を持ち、左記先達のセクトに対する評価のいずれに妥当性があるのか、なる提言を起こし、かのゴーグラン夫妻の研究成果であるゴーグラン・セクター(Sector)ならびにそれに基づく著者自身による検証結果(文章・グラフ・表)までをも持ち出し論じなさった事などをも思い出せば至極当然といえるものとレヴュアーは考えますけども、本書ではセクトなど占星術での技法のみならず、より大きなテーマ(仕事・金銭)そのものにまでメスを入れておられる、という事ですね。

 

ここではジョン・ガドバリーの箴言の多くで第2ハウスのみならず第1ハウスが重要視されていることに着眼、一本目のケース・スタディ(=宇宙飛行士バズ・オルドリン)でさっそくガドバリーの箴言の検証を含めてのリーディングに入っていますが、レヴュアーとしては紙面も限られているかもしれないこの場面でなぜ上記ガドバリーの箴言を著者がわざわざ出してきたか、その動機の方にもフォーカスしつつ読み進めるというのもありかと存じます。

 

What may perhaps be the most surprising about these aphorisms is Gadbury's reliance on the Ascendant with respect to financial gain or loss. Clearly, it's not enough to have things working in the 2nd if the Ascendant is afflicted. (p. 91)

 

(意訳)これまで述べてきた(ガドバリーの)箴言について、恐らく私達にとって最も驚きに値するかもしれないのは、ソーラー・リターン・チャートで財産の増減を読む際、ガドバリーがアセンダントに重きを置いていることです。アセンダントがハード・アスペクトなどで損じられていた場合、第2ハウスで働いている象意を受け取ることが充分とはなり得ない、という彼のロジックは至るところで明白です。

 

レヴュアーいわく、この章のみならず、いずれの章、いずれのテーマ(恋愛・結婚、人間関係、リロケーション、学業、名誉を得ること、健康問題、人生の転換の年、本人ならびに肉親など親密な人々の死)においても上述テーマそのものに対する洞察→先達の意見のなかで着眼なさったアフォリスムなどの提示→膨大な知識に支えられつつ自身の経験・実践に基づくケース・スタディ検証(=レヴュアーいわく、ホラリー占星術に対するアンソニー・ルイスの姿勢を思い出す)→先達の言葉に対する賛否をも含めての結論・まとめという流れでまとめられていますが、著者が発するチャート解釈上の言葉の数々の中には、ちょうどレーマンがガドバリーらの箴言を語ったように、今後占星術を学ぶであろう21世紀の学徒に語り継がれるのでないか、と思われるものもあるとレヴュアーは考えます−が箴言になり得る知識以上に重要なのはもちろん「ネイタルならびにソーラー・リターン・チャート一つひとつをじっくり読む」こと、チャートを読むことは箴言やパターン化したマニュアルのみでは充分でない場合もある事を、研究のみならず実践占星術師でもある著者は熟知なさっているでしょう、この点についても読み応えがあるものとレヴュアーは考えます。

 

第12章はレーマンが「これまでテーマごとに論じてきましたが、それが本書の目的という訳ではない」(p. 216)と称し一人物(フランクリン・ルーズベルト)の人生のうち41年分のソーラー・リターン・チャートをひたすら読み続ける圧巻の章(全67ページ!!)。ソーラー・リターン・チャート一つひとつのみならず、それらが連続体として織りなすストーリー、人生の流れにまで言及なさっています。第13章は総まとめ。

 

充実の巻末付録は用語集、エッセンシャル・ディグニティ表、カルダーノ、ジャン=バティースト・モラン(1583〜1656)、ガドバリー三者の箴言の要点をまとめた表、用いられた総てのチャートでの配置(例: 太陽が第1ハウスにある、etc)のインデックスなど。

占星術洋書レヴュー#03 Garry Phillipson"Astrology in the Year Zero"

  • 2017.12.16 Saturday
  • 05:00

ギャリー・フィリプソンのインタヴュー記事の素晴らしさは、占星術雑誌"The Mountain Astrologer"誌収録記事などとして、レヴュアーはいくつも拝読し承知しているのですけども、本書は1996〜2000年の間になされた33のインタヴューが、インタヴューの件数ごとでなく著者が掲げた12のテーマごとにソート分けされ編集がなされたうえで、それらテーマにたいする著者の意見までもが述べられた一冊。

 

表紙をめくってすぐのページに収録された、ヘレン・ハウのレヴュー文(="The Astrological Journal"誌に収録されたもの)にある、「厳密な調査に裏付けられた12のテーマごとの章一つひとつは、あたかもテレビのドキュメンタリー番組のよう」というのは、レヴュアーにとってもしっくりくる秀逸な表現であると考えます。出版はフレアー・パブリケーションズ、すなわち2010年代の欧米占星術を牽引なさっている占星術家の一人、フランク・クリフォード主宰の出版社(2000年刊)。

 

レヴュアーいわく、A・Tマン編著"The Future of Astrology"(Unwin Hyman 1988、レヴュアーamazon.co.jpにてレヴュー済み、「占星術の未来」というテーマについての、14人の占星術家のエッセイを収録)やラファエル・ナサー編著"Under One Sky"(Seven Paws Press 2004、レヴュアーamazon.co.jpでレヴュー済み、一つのネイタル・チャートについての、12人の占星術師のチャート・リーディングを収録)などと同様、列挙された複数の人々の考え方を比較する(=天秤サインにとっての「物事の理解の仕方(=松村潔先生によれば、各サインの数え09゚ がこれを表す)」を象徴する天秤サイン数え09゚ 、複数の巨匠達の作品を横に並べる、アートギャラリーにかけられた三人の巨匠の度数を思い出す)楽しみを有する著書、という意味では本書も同様であり、さしずめ33人のインタヴューが収録されている事を「33人の作品が並べられている」と考えても良いとレヴュアーは考えます。上述通り、本書は上記「巨匠達の作品」ごとに収録されているという形はとっていませんけども(上掲"The Mountain〜"誌などで、インタヴューごとに読むこともレヴュアーとしては大いにお薦めではございます)。

 

上記「アート・ギャラリー」に掲げられた、総勢33名の占星術家はベルナディッド・ブレイディ、ニコラス・キャンピオン、ジェフリー・コーネリアス、ロバート・ハンド、リー・レーマン、グレアム・トービン、ノエル・ティル、ロバート・ゾラーら錚々たるもの。彼らの言葉はもちろん、それらをフィリプソンがどのようにデコレートの上「ギャラリーに掲げ」なさるのか、というのが本書の読みどころでしょう。

 

フィリプソンのインタヴュー記事の秀逸さはロバート・ハンドへのインタヴュー記事を一例として挙げれば、フィリプソンがハンドの著書・雑誌掲載記事など読み得るものは可能な限り目を通し、ハンドから最高の回答を引き出すために最善を尽くしておられるようにレヴュアーには映りました。インタヴューされているハンドはあたかも痒い所にすぐさま手を差し伸べてもらっていることもあってでしょう、答える言葉に躍動感、生々しさがみなぎっていたようにレヴュアーは記憶しています。相手を熟知、とまではゆかずともそれに近いコンディションづくりをなさったうえでインタヴューに臨んでおられるという事ですね(ハンドのように、インタヴューでの(読者からすれば嬉しい)饒舌ぶりが氏の著書での理路整然かつ、平易な(語彙が用いられた)文体と大いなる相違、コントラストをなしている占星術家もいるのを読者は楽しむことができる、というのもあると思います、レヴュアーなどは上記事例によりハンドに対する印象が変わった部分もございます)。

 

本文はフィリプソンならびに回答なさる占星術家、両者のあいだでのやりとりと、インタヴュー以外の著者自身の言葉と、それぞれフォントを変え収録されているので両者を識別し読みやすい、というのもあります。

 

第1章「二種類の驚き("amazement")」は著者のまえがきのような内容。占星術家たちがインタヴューで提示した問題や、様々な意見を正確に読者向けに提示しようと努めてきたし、そうすることで読者が自身なりの結論を思い描くであろうとも考えた、一方著者自身は占星術家たちの発言に対しなんら意見を持たない、などと振る舞えば読者にはぶざまに映るかもしれないとしたうえで、にもかかわらず自身が直面した上記占星術家たちのものの見方一つひとつがいかに強靭なものであるかを読者に提示するには、自身の意見を脇に置く方がより効果的である事、ならびにその理由説明をなさるのです。

 

第2章「占星術に興味を持つこと」は、スコットランドで育ったというクリスティーン・スキナーの、幼少時代のある晩、妖精ブラウニーに連れ添うように父親と一緒に散歩した際、「天体や恒星が地球上の私達に影響を与えると考える人もいるんだ。(長い沈黙)…さっき言ったことはお母さんには内緒だよ」と告げられたエピソードから始まります。スキナーが実際、占星術の世界にどのように入ってゆくのかについては第4章で触れる、と著者は述べ、直後デニス・エルウェルの同じ質問への回答へと注意を移しておられます。

 

インタヴューに答えている占星術家同士は、互いに何を著者から聞かれどう答えたか知る由もないであろうにかかわらず、互いの回答が何かリンクしているように見えるのもおもしろい−これを著者は「ある占星術家の言葉から他の占星術家の言葉へとエコーがなされたよう」と表現なさっていますが、著者のテーマ設定ならびに引用の仕方・繋ぎ方・編集の仕方などが読者にそう映るようにさせ(魅了し)ているというのもあるでしょう。それは一人の占星術家のインタヴュー一本を丸ごと読む(のも上述通り、すばらしいのですけども)のとは別の醍醐味であり、また占星術家なら誰しも考えていそうなテーマなどをも著者が熟知なさっている、というのもあるかもしれません。

 

第5章「個人的は仕事」は、コンサルテーションが有する三つの基本フォーマットが.曠蹈好魁璽廚了ち主の特徴分析("Character analysis")、¬ね萢獣痢↓F団蠅亮遡笋紡个垢訶え、の三つであろう、としたうえで始まります、最初に紹介される回答者はノエル・ティル。ティルの場合上述、ハンドと異なりインタヴューでの話し言葉と著書での文体との間の相違、ギャップは少な目というか、あまり無いようにレヴュアーには映りました。

 

第8章「占星術における疑惑("doubt")」ならびに第12章「占星術とはなにか、科学か魔術か」の二つの章はたとえば運命と自由意思、占星術と宗教・魔術・科学など、占星術に携わっている限り、論争のテーマともなり得る事象に焦点が充てられていますが、欧米の占星術家は占星術家同士のみならず、科学者や宗教家など他職業に携わる人々とディベート、すなわち議論する機会も多いようで、そこで占星術家としての自身の立場をロジカルかつ明確に表明するためにしっかりとした意見を持つ(=結果的に占星術家としての成長にも繋がる)ための緊張がある、とある識者が述べておられた(とレヴュアーは記憶している)のを思い出しました。

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